卒業に寄せて

KeijiroToyoda
10 min readMar 9, 2020

--

僕のMediumの前の方の記事を読んでもらえればわかるが、昔はとても人に読まれることを意識して、もっと正直な言い方をするとSNSで評価を得ることを意識して(Mediumらしい)文章を書いていたが、最近はとても雑な意識でこのMediumの編集画面に向かうことができている。やっぱりブログはこうでないと。

さて、これを書いている今は3月10日だ。ご存知東大の合格発表日だが、ちょうど5年前の今日に本郷キャンパスの掲示板の前で自分の受験番号を見て歓喜したのだと思うと感極まるものがある。息子2人の受験をようやく終えた両親は胸をなでおろし、関西から駆けつけた祖父母は号泣し、僕はアメフト部に胴上げされていた。

ちなみにこれは嘘で、自分の合格発表の年は総合図書館の工事の影響[要出典]で合格発表の掲示はなくWebのみでの発表だった。昼の12時ごろに味気のないHTMLの中に自分の番号を見ただけである、実家のダイニングだった。

記憶だとその後祖父母に電話し高校に向かった。高校に自分の受験番号を間違えて伝えており、その番号の受験生は落ちていたのでヘラヘラ笑いながら教室に入ってきた自分を見て担任の先生が驚愕していたのを覚えている。

思い出というのは結構な価値を持つと思う。今年の受験生もコロナウイルスの影響で合格発表の掲示は中止になったということで大変気の毒である。でも合格掲示に加えて卒業式まで消滅した自分の方がよっぽど気の毒なので同情はしない。

自分は3年生に進級するタイミングで1年休学したので同期たちの卒業式は1年前だった。このブログで書いている通り休学に特に大きなデメリットを感じたことはない。特に国立大は0円で休学できるのでメリットの方が大きいのは間違いない。

しかし1年前のあの日は違った、Instagramのストーリーに無限に流れてくるあの安田講堂前の映像には結構心をやられた。アカデミックガウンに身を包み手には学位記とスマホを手にした友人たちは滅茶苦茶に楽しそうだった。マジで。あの日ばかりは休学を後悔した。

そんなこんなで卒業式は1年前から楽しみにしていたので結構悲しんでいるのである。しかも自分は学部卒なので二度と卒業式はやってこない。

しかもこんな年に限って桜の満開予想日は平年より10日早くなって卒業式当日である。あったけえ。

引用元: https://tenki.jp/sakura/expectation/

ちなみにこの令和元年度の東大の卒業式は中止ではなく「縮小開催」なのだそうだ。学生は各学部の代表者(おそらく成績優秀者)のみ出席、他の一般卒業生はライブ配信を見てくださいとのことだ。

まあきっと裏側で色々な事情があるのだろうしとやかくいうのは理性的ではないのだが、一(一般)卒業生の感情としてはそんなしょーもないプライドで無理やり開催するならむしろ中止にしてくれよと思う。2週間後の当日は配信は見ずに安田講堂前の芝生で缶ビール片手にn杯やりたいと思っているので晴れることを祈っている。手洗いうがいは忘れずに。

卒業設計を振り返って

さて、少しは価値のあるエントリにしたいので学科名物の卒業設計を振り返ってみる。

自分が所属する工学部航空宇宙工学科の4年生のスケジュールは変則的で、11月末に卒論を提出したらそこから2月末までの3ヶ月間は卒業設計という別の課題に身を捧げることになる。ちなみにそれぞれ10単位, 6単位だ。

卒論までの期間に関しては年末の学科のAdvent Calendarで書いた記事で振り返った気がするのでここでは触れない。

卒業設計を時系列で振り返ってみると以下のような感じだ。なお、僕はシステムコースなので宇宙機という選択肢もあったが航空機を選択した。推進コースだとエンジンを設計することになる。

11/27 設計ガイダンス

ここではふわっと課題全体のスケジュール感と12月9日までにどんな機体作りたいか設計要求考えてきてね〜という話をされる。

12/9 計画設定諮問

設計要求と集めてきた参考データを教員陣にチェックされる。僕は「B787みたいなのを作ったら最新の設計思想に触れられそうなのでB787の航続距離とかペイロードとか少し大きくしたやつ作ります」と言ったら、「もっとこの要求で新しくこう言ったことが実現できるとか、そういう出発点にしてよ」と言われた。とても正論でぐうの音も出ないがそれで新しいの考えて来いと言われるほど厳しくはない。

12/23 基礎計画書 & 初期三面図提出

この日までに基礎計画の計算書とA3用紙に書いた三面図を提出すると2日後の25日に返却される。

内容としては「航空機設計法第一」の内容に対応しているが、直前までやるのをサボっていた結果徹夜しても間に合わず1日遅れて提出することになった。また、三面図はAdobe Illustratorで作図したものを印刷したものを提出したが赤ペンで「次は手書きでやること」と書かれて返却された。

1/10 初期性能等計算書 & 修正三面図提出

この日までに性能の計算書とA3用紙に書いた修正三面図を提出する。

内容としては多分「航空機設計法第二」に対応する。自分は履修しなかったのでだいぶ手こずった。どのぐらい手こずったかというと前回提出が遅れて反省したので今回は年末年始に親の実家に帰省してる時もコツコツと進めていたのに、結局最後は徹夜で20時間以上ぶっ続けで作業する羽目になった。それでも三面図は間に合わず4日後の諮問に直接持っていった。

1/14 中間指導

10日に提出した計算書と三面図が返却される。自分は三面図はその場で見てもらったが特に怒られなかった。ここでは教員陣に三面図を見ながらあれこれ言われる。やれ垂直尾翼が小さいだの、主脚の位置が重心に対しておかしいだのと言った感じだ。これらのフィードバックをこれ以降の作図に反映させる。

製図期間

中間指導が終わるとここから最終諮問の2/28まで1ヶ月半ずっと製図期間である。ひたすらに体力にいる作業だがこれまでの計算書に比べると頭は比較的使わないので個人的には精神は楽だった。みんなはどうなんだろう。

これもお作法が決まっており、学科の建物の5階にある製図室に各々机を割り当てられ、そこで作業することが義務付けられるのだ。製図室と言ってもドラフタがあるわけではない。ただのA0弱の大きさのデカい机があるだけだ。

この製図室で学生は方眼紙に10枚(機体によって1–2枚増減する)の図面を書かなければいけない。機体の全体像からエンジン取付部や脚のような細部までを方眼紙場で設計し、作図する。縮尺を計算して辻褄を合わせながら作図するのでかなり骨の折れる作業だ。そもそも構造のわからない部分などは大量の資料を漁らなければならない。

そんな感じで作図したものに平日の午後に教授がやってきてこれこれを直した方がいいね、とアドバイスをくれるので学生はA0ロールの方眼紙上に消しゴムを走らせ描き直す、と言った具合だ。

自分は紙の上で試行錯誤するのが嫌だったので全部Illustrator上で設計してから方眼紙にプロットしていった。これのおかげで自分はだいぶ作業が楽になった。教授は方眼紙上に描かれたものにしかアドバイスはしないのでそれでも描き直しが発生することはあったが。

また、自分は火曜日曜休みで週5フルタイムで働いているので基本的に作業は休日とそれ以外の日の深夜に行うことになる。週に何度か夕飯に用心棒で腹を膨らませてそのまま朝の2~4時まで製図室にこもると行った生活をすることになった。

さらに、平日の午後にアドバイスを受けるチャンスが火曜日しかなかった。これは非常にまずく、何がまずいかというと教授からの心象が悪くなるのだ。「基本的に自分が行っても製図室にいない奴」という認識になる。平日仕事している自分が100悪いのだが、それでも深夜の頑張りは汲み取られず最終諮問で詰られた時には少し悲しかった。

2/17 中間諮問

ここまでの製図の進捗をチェックされる。最終諮問の11日前なので全然中間ではなく、基本的には皆7~8枚が描きあがっている。なぜか全ての諮問イベントの中でこの中間諮問が最も参加する教員の数が多い。なんでだろう。

教員にいくつか指摘を受けるので最終諮問までに直す。また、ここには強度計算書①を持っていくが自分は一瞥もされなかった。

中間諮問〜最終諮問

この11日間で残りの図面を描き上げ、さらに描き上がった図面全てを方眼紙からトレース紙に写すという作業を行う。これがめちゃめちゃ虚無でしんどい。CADでいいやんけ。。。と何度思ったことか。

提出3, 4日前の2日間は本郷キャンパスでは入試をやっているがもちろんそんなの関係ない。学生証を見せれば門は通してもらえる。

何度かの深夜作業と1日の徹夜で最終諮問には丸1日の余裕を持って終わらせることができた。

2/28 最終諮問

ひとり15分の枠が与えられているので、朝の9時から始まり夕方まで続く。教員陣の皆さんはお疲れ様である…

これは最終諮問に限った話ではないが、自分は休学したせいで学籍番号が一番最初の扱いになってしまった。したがってトップバッターである。正直これまでの諮問が緩かったので油断していたが15分という時間を与えられた最終諮問の教員陣は容赦なしであった。

  • 翼型は?その翼型のメリットは?
  • APUなんでここにあるの?どこから空気取り入れるの?
  • このエンジンは構造どうなってるの?燃焼と圧縮はどこ?

とか色々聞かれる(なんでエンジンのこと聞くの?)…その他細かい部分図面の足りない部分を指摘され、修正してから最終提出をするように言われる。ここには強度計算書その②を持っていくが自分の場合はパラパラと見られただけであった。

まあ厳しいは厳しいがここでリジェクトされるということは課題を完了させていればないはず。宇宙機設計では2年前に未完のまま持って行ってブチ切れられたという話を噂で聞いたが…(結局10日の猶予を得たらしい)

その後修正箇所を直し指定場所に提出しこれにて卒業設計完了である。

一番大事なこと

ここに卒業設計で一番大事なことを書きます。それはデカイ機体にしないこと。デカイ機体は百害あって一利なし!デカイ機体にする奴はバカ!みんなやめよう。具体的なデメリットとしては

  • 構造部材線図で描くストリンガの数が尋常じゃない。本当にめんどくさくなる。
  • 一般配置図でも描く椅子の数が尋常じゃなくなる。自分は300席描いた。
  • 組立三面図で描く窓の数も多くなる。
  • 翼胴結合で不静定結合という形式にせざるを得ず、ラグ結合に比べて作図の労力がめちゃめちゃ増える。そもそもよくわからんのでリサーチも必要になる。

ちなみに自分の研究室の人間は全員デカイ機体にしたので全員バカである。

その他卒業設計について

死ぬほど大変な課題か?と言われるとそうでもない。週2,3バイト程度の忙しさなら徹夜なんて一度もせずに終わらせることは可能だろう。

また、個人的には設計の過程で航空機の知らなかった構造や制約を学べて後半は楽しかった。そんなに悪い課題でもないなと思うが、今学生へのアドバイスを担当している教授が退官したらどうするんだろうとちょっと心配。

まとめ

卒業とはなんだろう、自分は大学の専攻で何かを修めましたと言えるほど模範的な学生ではなかったけれど、学位記はもらえるし(卒業式ないので郵送?)、何よりこの大学からは多くをもらったのでとても感謝している。自分にはもったいないくらい恵まれた環境だった。

--

--

KeijiroToyoda
KeijiroToyoda

Written by KeijiroToyoda

デザインに多少詳しくて、サイバーセキュリティの仕事をしています

No responses yet